「知っていますか？あの下に紫陽花が埋まっているの」

「へぇ、それはそれは」
「あんな大雪にもれても大丈夫なものなのですかね？」

「知っていますか？あの紫陽花は赤紫と青紫の花が咲くの」
「へぇ、それはそれは」
「どちらかに寄っているものだとばかり思っていました」

「知っていますか？まだ植えて数年しか経っていないので、まだ小さいのを」
「へぇ、それはそれは」
「容赦なく雪を積んでしまいましたが、可哀想な事をしました」

「知っていますか？紫陽花って美味しいの」
「申し訳ないと思っているならば、食べて差し上げたらどうですか？」

「へぇ、　　そうですか」


「しかしまだ雪かきが残っているので、死ぬわけにはいかないのです」

「そんなところで寝ていると風邪を引きますよ」

「風邪など引けばよいのです」
「何故？」

「そしたら夢の中でずっと雪かきをして暮らします」
「それは大変でしょう？」

「よいのです、延々降り続ける雪を、好きなようにかき続けます」
「よいのです、今日くらいの軽い雪ならばずっとかいていられます」
「御覧なさい、地面は凍っていますし、ずっと雪は降っています、解りますか？好条件なのです」

「お腹だって減りますよ？」
「よいのです、何も食べたくはありません」
「よいのです、夢の中では何も食べずに済みます」

「手も、このように冷えますよ？」
「よいのです、いざとなれば手袋があります」
「よいのです、ので、どうぞお手は触れずに」

「お気に触りましたか？」
「よいのです、ただこの防衛ラインは今冷気と対峙することに神経を注いでいます」
「よいのです、が、」

「起き上がって家に帰れば寒くはありませんよ」
「よいのです、雪に体温を伝えているだけです」
「よいのです、寒くはありません」

「いつまでこちらに？」

「雪とすべての体温を共有して一つになるまでは何処にも行きません」
「どうぞお帰りください、風邪を引きますよ」

「減るものではありませんので」
「今しばらくここに居ます」